旧「オヤジのフレンチ」

「メニューを書く」という仕事(言い訳?)

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フレンチの料理人ってのはソコソコにフランス語も勉強するものなんです。
まずメニューが読めなきゃならないし、シェフになったらメニューを書くことも仕事のうちですから。

ほとんど日本人のお客さんしか来ない店でフランス語の表記が必要なのかってとこは議論の余地はあるでしょうけど、これは「ウチはまっとうなフランス料理店ですよ」っていうアピールとしての意味合いが強いでしょう。そういう意味で言うなら間違いだらけのアヤシゲなフランス語を書いちゃうのはかえって逆効果であろうと思いますが。

そんなことより最も大事なのは日本語の表記であることは言うまでもありません。

料理の内容をわかりやすくお客さんに伝えること、そしてなおかつ魅力的な表現でなければならない。全くの創作料理ならどんな名前をつけようが「お好きにドーゾ」ですけど、「フランス料理」であるなら一定のルールというものがあります。
そんなことを私はあるフランス料理とフランス語の権威のかたからずいぶん仕込まれました。(そのわりにはサラマンジェのメニューの表記はわかりにくいものが多いですけど、それは今回はヨコに置いといてください) そのかたは料理人ではありませんが、私にとっては師匠、恩師といってもいい人です。

そのかたのお名前を仮にマックス先生とします。

マックス先生は、コトバに対して厳しい人です。
ある時、私は「ブレゾット(blésotto)」という語をメニューに書いたことがあります。
麦(blé)でつくったリゾット(のようなもの)のことで、造語ですがフランスではわりとよく見かける表現です。しかしマックス先生は許してくれません。
「そんな造語を使っちゃいけません」。
「いけません」とは言っても、「ではこうしなさい」という答えは与えてくれません。
じゃあなんと言えばいいんでしょうか。「麦のリゾット」? リゾットってのはそもそも米(riz)でつくるからrizotto(※)なので、「麦のリゾット」は「羊の牛乳」「牛から落馬」「馬の耳に念仏」(違うか…)
とにかく居心地が悪いのですよ。「麦のリゾット風」とすればいいんでしょうが、メニューの表記としてはどうも冗長な気がするし…。答えはいまだ見つかっておりません。

マックス先生は「外来語として多くの日本人が理解できる言葉以外は日本語にすべき」という考え方ですから、たとえば「ヒラメのデュグレレ」なんかも☓です。
人名なんだから訳しようがない、と私は反論しますが、どんな料理かわからないじゃないか、と言われると私は黙るしかありません。
「料理名はお客さんがその皿をイメージできるものにしなさい」とよく言われたものです。

マックス先生はまた、カタカナの表記にもウルサイ人です。
前回のエントリで訂正したFoie grasも「フォアではなくフォワだ」と教えられたことを忘れていたわけではないんです。サラマンジェの表記は以前から「フォワグラ」です。ただクイーン・アリスでの表記が「フォアグラのソテーと…」なんですよ。なのでそれを尊重したといいましょうか…。けど、実際に「フォアグラ大根」でパテントをとっているという状況でもないので、考え直してマックス先生の教えに従ったというわけです。

聞くところによりますと、若いコックさんもけっこうこのブログを読んでくださってるんだそうです。
そんな方達のためにも何のただし書きもなくおかしなカナ表記を持ち出しちゃ申し訳が立たない。
不用意な表記をしたことはまったく私の不注意でありまして、とくにどなたかの「ヒトリゴト」に従って無思考に訂正したわけではございませんので、関係各位におかれましてはどうぞご安心召されたく存じます。

さて、先ほど「フォアグラのソテー」と書きましたが、私がメニューを書くなら「フォワグラのソテ」とするでしょう。いや、実際にサラマンジェにはそのままのメニューが存在します。
フランス語には長音(ー)や促音(ッ)はない、というのが学者さんたちの間では通説のようでして、マックス先生からもそう教わりました。
ただし、長音や促音を入れたほうがよりフランス語の発音に近くなるものもございまして、一概に「全部ダメッ」とすることもないんですよ。

ただね、これは私のような素人の手に負えるお話ではございません。
学者さんでも意見の分かれるものだってあるんですから。

いい時代になったものでwebにはこんな時に役立つサイトがあるものです。
フランス料理あれこれ

メニュー書きが目前のシェフ予備軍の皆さんも、すでにシェフのかたも、ぜひ参考にしてください。正しく「メニューを書く」のってけっこう大変な仕事なんですよ。

今日のエントリはほとんどのかたにとって「どっちでもいいじゃん」的なことではありますな。
けど、シェフを目指す人にとっては大事なことなんです。

長々とお付き合いいただきましてありがとうございました。

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ぜんぜん違う話なんですが、一昨年あたりからBeaujolaisを「ボージョレ」と表記するのをよく目にするようになりましたよね。以前は「ボジョレー」だったじゃないですか。
いったい何があったんですか? インポーターさんにも訊いてみましたが、はっきりとした答えはどなたも持っていないようです。
「ボージョレ」のほうがより発音に近い、ということにでもなったんでしょうか?
じゃあ、以前ご紹介した「BOJO」はどうなっちゃうんでしょう。
今、私はこのことが気になって、気持ち悪くてしょうがないんですが…。

(※) リゾットには複数の綴り方がありますが、文脈の関係から今回は「rizotto」を採用しました。

chef

4 Responses to “「メニューを書く」という仕事(言い訳?)”

  1. 凌駕D1 2010年3月4日 at 08:23 # 返信

    本当に勉強になりますね.プロの方に詳しく教えて頂けるのはシロウトにとってもありがたい物です.
    フランス料理における「料理名」は,材料はもとより,調理方法,風味や香りの付け方,すなわちスパイスの使い方等が事細かに表されているもの.と調理の本に記載されているのを拝見し,目から鱗の思いをしたものです.
    それ以来,メニューを読めるくらいにはなろうとフランス語の勉強を心がけていますが,なかなか難しいですね.原記載に沿った標記方法が重要であるのは,どの業界でも同じと存じますが,なかなか外国語を表現するのは難しい物です.フォワグラ・・・覚えておきます.
    最近牡蠣と大根の組み合わせのキッシュを頂き(全うなシャルキュトリーとしてのキッシュ,カフェの「オサレな一品」ではございません)大根に出汁を含ませて食べさせる方法に目から鱗の思いをしました.フォワグラ大根も定番の料理になってしまったかもしれませんが・・・ブリ大根から発想を得たのでしょうか?大根の持ち味,特徴を良く捉えた調理法である旨,しみじみと感じ入りました.

  2. 凌駕D1 2010年3月4日 at 08:36 # 返信

    言葉の話なのに・・・早速間違いを・・・シャルキュトリー→トレトゥールトです・・・.こちらも本当はどのように記載するべきなのか?軽はずみで申し訳ありません.
    パテ・アンクルートが食べたくなってきました.自家製のバゲットも美味しかったですよ〜.

  3. オヤジシェフ 2010年3月4日 at 13:02 # 返信

    キッシュはパティスリの仕事でございます。
    → http://hisashi-wakisaka.com/gnafron/wp-content/uploads/oyaji/2007/02/post_c328.html
    もう少し詳しく言うと、パティシエ・トレトゥールPâtissier-traiteurですが、現在ではパティスリもトレトゥールも微妙に意味が変わってますね。

  4. 凌駕D1 2010年3月5日 at 08:32 # 返信

    へー
    イルプルやオーボン(長いので省略させて頂きました)などではトレトゥールを扱いますし,フランスでパティシェとして働いていた方も同じ様な事を話していましたね.門外漢なのでブランジェとパティシェとキュイジニエの仕事が微妙〜に被っている様な気がしていました.本当は厳密に棲み分けがなされているのでしょうか?
    フィユタージュやブリゼを使用するアイテムは確かにパティスリの方が得意そうですね.ちょっとした事ですが・・・生地モノまで美味しいと,ちょっと得した気分です.

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