旧「オヤジのフレンチ」

「トリッパ」も禁止です

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もう3ヶ月くらい前のことですが、ある料理雑誌の編集さんからこんなお電話をいただきました。

「内臓料理の特集をやるので内臓類に詳しい業者さんを紹介してほしい」と。

お♡じゃあ当然料理の取材はウチだよね?と思いまして取引のある肉屋さんを紹介しました。
ところが待てど暮らせど取材がないんですよ。
そうこうしてるうちにとうとう本が発売されちゃいました。取材協力ということで一冊送られてきましたが、当然私の料理は載ってません。私が紹介した肉屋さんはちゃんと名前が出てますけど。

どうなっちゃってんだろうね。ま、いろいろ出版社の方にも事情はおありでしょうし、ここでゴネるつもりもないんですが、ちょっとね、寂しかったんですよ。

内臓料理の特集なら私も言いたいことがあったんですがねぇ。だってそもそもサラマンジェ自体が「内臓料理特集」みたいな店ですから。
けど、出版社にそっぽを向かれちゃったので、じゃあ、ということで自前でやることにします。

調理法や下処理の技術講座は誌上で展開されていますから、私は周辺のことについてやってみましょうか。

食用になる内臓類は仏語ではAbats アバ(家・野禽類の場合はAbattis アバティ)と言います。
屠殺するという意味を持つAbattreの派生語です。家畜を屠ったときに最初に得られるものだからでしょう。

AbatsにはAbats rouges(血、心臓、レバ、腎臓など。赤もの)と、Abats blancs(脳、消化器。頭、足など。白もの)があります。(注1)

赤ものはやはり鮮度が重要ですし、デリケートな取り扱いを要求されますから、なかなか手を出しずらいものではありますが、やってみなけりゃ始まらない。まずは賄いから始めてみるとよいでしょう。豚のロニョンならかなり安価で手に入るはずです。そしておいしいです。私も以前はよく使いました。

一方白もののほうは「ホルモン」に代表されるように一般の方にもなじみやすいので、レストランのメニューにもよく見かけます。
その中でもとりわけ認知度が高いのは「トリッパ」でしょうな。

はぁ、またイタリア語か…。

イタリアンに対して並々ならぬ敵愾心を燃やす私としてはですねぇ、メニューに「トリップ」と書いてあるのに「トリッパ」と発音されるとスイッチが入っちゃうんですよ。(今日はプロ向けのつまらないハナシだと思いましたか?ここから面白くなりますからどうぞお付き合いください)

イタリアンの人が「トリッパ」という時には「ハチノス」を指すようですが、イタリア語ではそうなんですか?恥ずかしながら勉強不足で私は知らないんですが、少なくともフレンチの世界では「トリップ」=「ハチノス」ではありません。

Tripesについて手許にあるNouveau Larousse Gastronomique(1960年版、古くてスミマセン)に拠ると、

反芻動物の胃であるが食用になるもののみをさす。反芻動物に加え、ある種の家畜(Animaux de boucherie)、とりわけ豚と羊のもの。(訳は筆者)

わかりにくくてすいませんね。けどこう書いてあるんだからしょうがない。
Animaux de boucherie(肉屋の動物)というのはすなわち牛と羊のことで、豚は含まれません。フランスでは昔、ギルドと呼ばれる同業組合が激しく権利を主張しあっておりまして、豚肉はシャルキュトゥリでないと扱えなかったのです。そして内臓類はTripierあるいはTriperieという臓物屋が専売的に扱うものでありました。
なので臓物屋が扱うもの全般を集合的に「トリップ」ということもあったようです。

Larousseはこのあと、豚のトリップの用途としてブーダン、ソーセージ、アンドゥイエットの包みもの。と説明しているのでトリップには腸も含まれることがわかります。

さて、「ハチノス」はトリップの一つではありますが、「トリップ」は「ハチノス」のことではない、ということはお分かりいただけましたでしょうか?

もっとも有名な料理は Tripes à la mode de Caen トリップ ア ラ モード ド カンでありましょうが、これには牛の4つの胃が全部入ります。
これはサラマンジェの夏の定番ですから、もう少し暖かくなったらまたメニューにオンしますが、「トリッパね。トマトで煮たアレでしょ?」という反応は私を苦しめます。どうか料理説明は最後まで聞いてください。

それにしてもイタリア語の浸透圧の高さには驚かされますな。それによって私らフレンチの世界も恩恵を被っていることはありますけど、けどね、とりあえずフレンチの店で「トリッパ」はご勘弁くださいな。コマカイことですけど。

長文になってしまったので今日はこのへんで許してあげます。

関連記事:ツッコミ禁止!!

注1)羊の場合は、赤、白を分けずに、ひとくくりでFressureともいいます。

参考文献:
フランス食肉事典 田中千博 三嶺書房
フランス食の事典 日仏料理協会 白水社
Nouveau Larousse Gastronomique  Prosper Montagné-Robert J.Courtine  Librairie Larousse

chef

3 Responses to “「トリッパ」も禁止です”

  1. Hulotte 2010年2月11日 at 21:18 # 返信

    え!そうなんですか!
    てっきり、トリッパ=ハチノス=トリップだと思い込んでいました。
    という事は、ブーダン、アンドゥイエットなどもトリップの料理と言うことになるわけですね。
    待てよ。イタリア語でもTrippa=牛の第二胃袋、と言う意味では無いのかしらん?
    Animaux de boucherie、Charcuterie、Tripierの棲み分けというのは今でもあるのでしょうか?
    例えば鶏肉、或いはジビエなんていうのはどこで売られているのですか?
    本当にお勉強になるブログですね~。
    お忙しいでしょうが、毎日の更新を切に願います。
    > 豚のロニョンならかなり安価で手に入るはずです。そしておいしい
    > です。私も以前はよく使いました。
    かねてより、Rognon de veauというのを食べてみたいと思っていて、でも下拵えがちゃんとされていないのを食べると臭み(有体に言うと”小便臭”?)があると聞いたので怯んでいるのですが、どうなのでしょう?
    豚と仔牛とでは?
    美味しいのなら、またメニューに載せてくださいまし。
    とても興味があります。
    > もっとも有名な料理は Tripes à la mode de Caen トリップ ア ラ 
    > モード ド カンでありましょうが、これには牛の4つの胃が全部入
    > ります。
    > これはサラマンジェの夏の定番ですから、もう少し暖かくなったらま
    > たメニューにオンしますが
    いつ頃ですか?
    やはり煮込みなのですか?
    是非食べたいので、メニューに載りましたら、このブログでお知らせください。
    料理説明を最後までお聞きし、「トリップ」と発音してお願いしますので。

  2. 凌駕D1 2010年2月12日 at 08:39 # 返信

    勉強ーになりますね.トリップとわざわざイタリア語と区別して記載されている事にすら気づかなかったと思います.
    Tripes à la mode de Caen ですか,メニューで拝見したのかな?イタリアンの・・・トマト味の,「くだんのアレ」を頭に思い浮かべました.アレとどう違うの?わざわざサラマンジェで食べなくて良いジャン! とも・・・・.反省です.食いしん坊万歳でトリップに拒否反応無しなくせに・・・訪問時には候補に入れておきますね.ちなみに私はサラマンジェさんのパテ・アンクルートが気に入っています.

  3. オヤジシェフ 2010年2月13日 at 01:53 # 返信

    Tripes à la mode de Caenについて。
    牛の4つの胃、羊の足を香味野菜とともに、シードルとカルヴァドスで煮込んだもの。でございます。
    羊の足によってコクが、シードルによってさわやかな風味が特徴のノルマンディー地方の料理です。
    なのでサラマンジェでは夏の料理としています。
    5月の連休明けか6月くらいから始めようと思っています。
    どうぞご期待ください。
    今回の記事は書き始めてからアップするまでにほぼ1週間かかってます。遅筆なものですから…。
    毎日はとても無理です。
    ご質問をいただきましたが、お答えするのにもさらに相当の日数を要すると思われます。憶測や思い込みでお答えするとえらいことになるので。
    いずれかの機会にお答えできると思いますので、気長にお付き合いくださいませ。

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