もどってまいりました。
私の留守中も思いのほかたくさんのお客様にお越しいただきましてありがとうございました。
さて、さっそくコンクールのご報告でございます。
やさしくスルーしてねって言ったのにどうしても皆さんお聞きにならずにいられないようなので、しょうがないんでご報告いたします。
まずね、皆さんあまりご存知ないと思いますんで「トレトゥール」とは何ぞや?ってとこから始めましょうか。
日本語では「仕出し屋」とか「惣菜」なんて訳されることが多くて、だから「弁当?」なんていう人もいたりしますが、ざっくり言うと料理や飲み物はもちろんその他出張宴会に必要な一切合切を取り仕切る仕事と思っていただければよろしいかと思います。
で、これにはパティシエ(といっても単なる菓子屋のことじゃないってことは以前お話ししました)がやるものとシャルキュティエがやるもの、およびその複合形があります(今では中華や東南アジア系のトレトゥールも非常に多く見かけます)。
そんなわけで今回のコンクールもシャルキュティエ(キュイジニエ)とパティシエの二人でチームを組み、それに各チームに一人のコーチがついて三人のチームで戦います。
われわれのコーチはジョルジュ・ドラングルさん(80歳!です。我々は親しみを込めて「ドラちゃん」と呼んでいます)といって、MOF(Meilleurs Ouvriers de France 国家最優秀職人)の称号を持つかたで、これまで何度も日本に来ているので私は以前から知己のかたでありましたが、相方のパティシエは現在フランスで修業中の若手で今回フランスへ渡ってから初めて会った丸っきり初対面の人でありました。
私の出場が決まったが12月だしホントに急ごしらえのチームだったのですが、このパティシエの若者が技術面も性格も素晴らしく良くできた人物で、彼がいなければここまでは戦えなかったろうと思います。
さて、課題は全部で五つ。
- Pavé de saumon doré
(黄金色のサーモンの敷石?) - Cœur de saumon marinée
(サーモンマリネ) - Pressé de foie gras
(フォワグラのプレセ) - Terrine de joues de porc
(豚ほほ肉のテリーヌ) - Fôret noire
(フォレ・ノワール チョコレートのデザート)
そしてこれらの料理をすべて盛り付けたビュッフェの制作。
サーモンマリネ以外は試食があります。
そしてこの試食の評価の中でも最も点数配分が高いのが「味(とテクスチャー)」で、この辺が「見てくれ」が勝負の日本のコンクールとはえらく違いますな。
コンクールは2日間にわたって行われました。
1日目はすべての料理の仕込み。
朝の7時から夜11時までにすべてを一から作らなければなりません。ソースやフォンなど仕込みに時間がかかるものも、あらかじめ作っておいたものを持ち込むことは許されませんから、計画的にやらないととても時間内には終わりません。
ハードでしたねぇ。こんなに長時間、かつ大量の仕事をしたことはここ数年ありませんですよ。オジサンにはきついっす。
しかし、この仕込みの作業も審査対象ですから気は抜けんのですよ。
調理場の整理整頓やチームで協力し合ってやっているか、さらには他チームともうまくコミュニケーションがとれているか、というところまで見られます。
テレビで時々やってるこの手のドキュメンタリー番組では必ずお約束のように「アクシデント」が起きるわけですが、
ハイ、私も皆さんのためにちゃんと用意してますよ。
その事件はフォワグラの加熱をしているときに起きました。
ちょっと離れたところにある全チーム共用のコンベクションオーヴンで70℃の設定で火入れをしていたんです。目の届かない場所ですから時々見に行ってはいたんですが、何度目かに見に行ったらそれが100℃になっていたんです。もうフォワグラは脂が分離してベロベロ…。
他のチームの誰かがなんとカボチャをそのコンベクションに入れて勝手に温度を上げていたんですよ。ふつー国際コンクールに出てくるような料理人ならそんなこたぁしませんよねぇ?。まさに「せぱ・ぽし~ぶるっ!」って感じですわ。
動揺する私を見て龍馬君が「審査員に相談を」と助言してくれました。彼は冷静でしたね。若いのにスバラシイ! 言われるままに主催者に事情を説明して新たにフォワグラをもらってやりなおしました。約4時間のロスです。
このフォワグラはキュイの温度が通常より低いし、冷却の時間もそんなわけであまりとれなかったこともあって最後まで私の不安の種となりました。
そんなこんなで大変な一日でございまして、この日の作業が終わるころには私はもうヘロヘロでございました。腰は痛いわ目はかすむわで、正直言うと疲労で集中力が切れていたことを告白します。歳をとるのは悲しいね。
二日目。
この日は朝から審査員による試食です。
まず「豚ほほ肉のテリーヌ」と「フォレ・ノワール」。
各チームともテリーヌの仕上げは素晴らしいです。趣向を凝らしたデザインとルセットをよく読みこんでいることが見た目にもよくわかります。この一発目のデギュスタシオンで私はすでに自信喪失気味でございますが、竜馬君のフォレ・ノワールは他のチームより完成度が明らかに上でありました。
午前中の二つの試食が終わった段階で、なぜかドラちゃんはすでに泣いておりました。
「いいデギュスタシオンだった」と。イミわかんないけど、もう歳だからね。涙腺がちょっと弱ってるようです。
そして午後は場所をSirha(あのボキューズ・ドールと同じ会場です)に移動して残りの試食とビュッフェの制作です。
ここからはテレビカメラが入っておりましたので、私の不安げな様子などがSirha TVで見ることができます。
まずはあの因縁のフォワグラのプレセ…。
私はヌガティーヌと組み合わせたのですが甘いと言われないだろうか?キュイは評価してもらえるだろうか?
もう不安で一杯でございましたですよ。
ところがですね、
日本チームのデギュスタシオンが終わったところで、コンクールの責任者Joël MAUVIGNEYが我々のBOXにやってきまして、ほかの人に見えないように下のほうでそっと親指を立てて一言、
「Magnifique!」
もうね、泣きそうになりました。気が抜けたというか、これでもうぜ~んぶ終わったような気分になっちゃいまして…。
あとから聞いた話ですが、午前のデギュスタシオンが終わった段階で日本チームはトップの成績だったそうです。とにかく「味が良い」と。ドラちゃんが泣いていたのはそんなわけだったんです。
そしてこのフォワグラが「Magnifique」でしょ。
ってことは・・・。
結果についてはもう皆さんご存知かもしれませんが、残念ながら日本チームは表彰台に上がることはできませんでした。
なぜかって言うと…。
ワタクシ、最後の最後「Pavé de saumon doré」で大失敗をやらかしました。
このコンクールは「外食産業見本市」の中のイヴェントでございまして、BOXの調理機器はプロモーションも兼ねて最先端のものがしつらえてあります。
熱源はIH調理器だったんですが、「doré」というメニューの指定ですからパワーマックスで行ったところ、これが思いのほか超強力でございまして、ちょっと火を通しすぎました。
現役のレストランシェフとしてはお恥ずかしいかぎりの痛恨のミスでございます。言い訳もできません。
途中までいい成績だったことを思えばなおのこと残念でなりませんが、これも実力ってことでしょう。
残念に思ったのは主催者側も同じで、すべてが終わった後、Joël MAUVIGNEYがまた我々のもとへやってきて、「あのサーモンはどうしたんだ?フォワグラもフォレ・ノワールもよかった。なのにあのサーモンですべてが終わってしまった」と言われました。
フォワグラをやり直せたのは竜馬君のおかげだしデザートは素晴らしい仕事をしてくれましたから、彼にはほんとに申し訳なく思いますし、たくさんの助言をしてくれた高齢のドラちゃんのためにも表彰台に上がりたかったけれど…。
結果は出せませんでしたが、本当にいい経験をさせていただきました。
次へ向けての課題は私たちの目にははっきり見えています。
今回は国内予選をすっ飛ばしていきなりの本選でしたが、次回の大会はしっかり準備をして臨めば間違いなく優勝できるでしょう。
私が出るかどうかはもうどうでもいいんです。誰が出ても日本の料理人のレヴェルなら十分に戦えます。私自身はそのためのお手伝いができればいいなと考えています。
もちろん今回だって多くの人のサポートがあったからこそ戦えたということは言うまでもありません。
渡仏後1週間しか時間がない中で、資材調達やビュッフェのアイディアと調理場を提供してくれたBernard FRANÇOIS(MOF),Robert POPY(MOF),私たちにこの機会を与えてくださり、日本からサポートをしてくださったAFJGの宇田川会長、そして現地で通訳やいろんなサポートをしてくれたMme Ritsuko COURTOISには特に最大の謝辞を贈ります。
そしてシェフの不在にご理解を賜りましたすべてのサラマンジェのお客様に。
Je vous remercie de tout mon cœur
おつかれさまです
自分の作った物を味で評価され,好評価されるのは本当に喜ばしい事ですね.普段ガスを使用されていると,見た目で温度が分からないIH調理器具に戸惑って当然ですよ.
フォアグラのアクシデントに冷静に対処してくれた阿部龍馬さんはお若いのにとても優秀な方なんですね.
私の職場にも外国籍の方はた〜くさんいらっしゃいますが・・・・日本人の様に「配慮してくれて当然」と思うと痛い目見ますね(笑).
何はともあれおつかれさまでした.そうそう見た目オシャレなものより「コレが食べられるなら太っても良い!!」と思える味が一番重要です.
昨晩、オッサン3名でお邪魔しました。
コンクールのトロフィーと思われる物が棚にあったので、入賞されたのかと思いましたが残念でしたね。
昨日のメンバーは以前欧州での職場の仲間で皆食べ歩きが趣味。
貴店の印象は、フランス田舎の美味しいレストラン、気取らず美味しいものを出すというイメージでしょうか?
料理も美味しく、ワインもリーゾナブル。唯あまり日本人向けにアレンジされていないので、年寄りにはちょっと量が多いかも(笑)、次回は少なめにオーダーしてシェアさせて頂こうかと思います。ご馳走様でした。