「少数精鋭の組織論」という本が幻冬舎新書から出ています。
書いたのは斉須政雄さんという人。
あまり露出を好まない人なので、一般の人がこの人の名前をどれくらい知っているのか私には見当もつきませんが、料理業界の人ならレストラン“コートドール”のオーナーシェフとして知らない人はいないほどの人物です。
タイトルだけみると堅いビジネス書のようですが、中身はレストランのシェフが調理場から見たモロモロの事柄をごく自然体で語っております。
「組織論」というより彼の“人生観”がぎっしり詰まっていて、同じ仕事を生業とする身として共感するところがたくさんあります。
この人、料理人としての理想像を体現してると言ってもいいと思います。
ともすると、華々しくメディアに登場したり、(自身では料理を作らないのに)冠を付けたディナー会を開いたりする(正確には担ぎ出される?)シェフを“料理人としての成功者”と考えてしまいがちですけど、料理人の仕事(人生)は調理場の中にあるものです。
今、世間にはシェフの名前を看板に背負った多店舗展開のレストランがたくさんありますけど、当のその人はその店の調理場にはいませんよ。料理はその人をそのまま表現してしまうものですから、そこで出てくるものはその人の料理ではありえません。
「企業に魂を売ってしまった」と言ったら言い過ぎでしょうか。
斉須さんぐらいになると、いろんな思惑でいろんな人が近づいてくるでしょう。
けど、彼はご自身を「料理だけをやってきたただのおとっつぁん」といって、調理場に立ちつくしている。
「今の時代はちょっと“ヘンなオヤジ”にならないと、まっすぐに生きられない」とも言ってます。
私なんか斉須さんと比べればまだまだ足元にも及ばない若造ですけど、こんなふうに料理を、人生を語れるオヤジになりたいんです。
Je suis cuisinier, C’est la vie…
ある思い入れがあって看板に書きました。
日本語では恥ずかしくてとても言えませんが、この文字に恥じない人生が送りたいものです。
愚直に、堅実に。
ところで、
“コートドール”に「野菜の蒸し煮 コリアンドル風味」という料理があります。
この皿には野菜しか乗ってません。それで3600円が安いかどうかは別として、この料理を食べたとき、私、衝撃が走りました。
“ア ラ グレック”という古典料理ではあるんですが、どうやって作ったのか分からないんですよ。その完成度の高さは怖ろしくなるくらい…。
正直、弟子入りして教わりたいほどです。
でね、つい先日、ウチのタケと新人君に「あの皿を食ってこいっ!」って言って送りつけました。
その結果はここにはまだ書きません。あの皿を再現すべくタケ君が試行錯誤しておりますから。
料理って、いまだに分からないことばっかりです。
熱心ですね~!
やるな~
コンニチハ!
「季節の野菜の蒸し煮冷製 コリアンダー風味」は、斉須シェフがパリ「ヴィヴァロワ」で覚えた料理、とのことです。
素材はごく普通の野菜のみ、調味は塩、コショウ、レモン汁、コリアンダーシードのみ。「ヴィヴァロワ」ではフォンや白ワインも加えていたそうですが、風味が淡く繊細な日本の野菜には合わない、ということで簡潔化。
さらに、当初は味のベースとしていたシャンピニオンのジュも、今は『旨みが強すぎる』ので省いているそう。
☆ポイントは、強めにきかせた酸の中に、各野菜の甘みや旨みをきちんと自己主張させること、かつ一つの料理として味のまとまりを損ねないよう、ぎりぎりのバランスを意識すること、だそうです。
なお、【作り方】の詳細は、「専門料理」誌2007年1月号の173頁を参考にされればよろしいかと存じます。
※なんとなく、チュニジアやモロッコの「タジン」に通じるところも感じます。
zagorskさま
情報をありがとうございます。
「ギリギリのバランス」もさりながら、私が一番感心したのはそれぞれの野菜のキュイの正確さでありました。それでいてひと皿としてまとまっている・・・
さっそく専門料理のバックナンバーを探してみることにします。