洋食系のコックさんの世界では、ホテルと街場(マチバ)って言うカテゴリー分けがあるんですよ。
街場ってのは街の中にある一般のレストランのことです。
ホテルを退職して街場のレストランへ行くことを「街場へ下りる」といったりします。お役人が使う「下野する」に近いニュアンスでしょうか。
要するにちょっと見下してるようなところがあるんですな。ホテルは街場よりエライと。
もちろんそんなことはなくて、仕事の規模とやり方が違うだけってことをちゃんと分かってる人だって大勢いますけど、中にはね、田舎のホテルに多いんですがシェフやスー・シェフの肩書きを持った人でさえ「ホテルはエライ」意識に固まってるのがいる。
特に都市型高級ホテル勤務のコックさんにはなぜかエリート意識みたいなものがあるようで。
「オレは客単2万の仕事をしている。街場はせいぜい5,6千円だろ?」
これが「ホテルはエライ」の根拠であります。
ダンナがエライと嫁までエラそうになるのと同じ理屈でしょうな。
私も以前は、名前を言えば誰でも知ってる大手ホテルチェーンに勤めておりました(地方ですけど)から分かりますけど、そのエリート意識の裏にあるのは「コンプレックス」なんですよ。
街場は規模が小さいから、スタッフはなんでもかんでもこなさなきゃなりません。だから5年もいればアミューズからデザートまで、そこそこのことはできるようになります。広く浅くって感じですかね。
一方ホテルは、規模が大きければ大きいほどすべてのセクションをまわるのに10年以上かかります。デザートは別の部署ですから一生やることはない。
その分ある特定の仕事については誰にも負けないスペシャリストが生まれたりします。
宴会場に飾る氷彫刻や、食材を使って作るいろんなオブジェは目を瞠るほどのすばらしい仕事をする人がたくさんいます。
ただね、ホテルにいればみんなが何らかのスペシャリストになれるものではないってことはあたりまえのことでして、そこにはやっぱり人並み以上の努力があったんですよ、他人と同じ事をしてたら他人以上にはなれないもんです。
で、先のコンプレックス君。
人並みのことしかして来てないから、人並みのことしかできない。
大所帯のホテルの中で自分にしかできないことなんか「なぁ~んにもない」、ホテルで10年やったけど、ストーブ(ガス台のことね)の前には立ったことがないから街場は無理だ。
で、
「オレは客単2万の仕事(の一部)をしている」ことでなんとかプライドを保とうとするわけですよ。
一種の自己防衛本能の発露ですな。
かくいう私も、「街場に下りる」までデザートはやったことがありませんでした。
独学です。そりゃもうやりまくりましたよ。
同じ物を何回も何回も作りつづけるんです。そうするとね、段々良くなっていくんです。
今ではレパートリーもそこそこ増えて、「この店はデザートがおいしいわよね」って言って貰えるまでになりました。
「デザートが」の”が”が気になって複雑な心境ではありましたが(-_-;)
独立を目指すホテル勤務の諸君!
街場もワルクナイヨ。
これ、おもろい!