今年もまたジビエの季節かやってきました。
実はサラマンジェでは今後飛ぶ系のジビエは扱わないという宣言を2年前にしました。
それでもこの時期になるとジビエについてのお問い合わせがたくさん来るんですよね。
電話口で「宣言を読んでください」なんて言うのは全然現実的じゃないし、説明することも難しいので再度ここに転載します。お時間がある方は上のリンク先をお読みいただきたく。
以下主要部分のみ再録
今日のテーマはおもにgibier à plumes(飛ぶ系)のリスクについてであります。これまで散々使ってきましたが今年から飛ぶ系のジビエはやめます。
鳥類の狩りでは散弾を使いますから、大型動物のように頭だけ被弾させるということができません。内臓に被弾してることも稀ではありません。弾傷があるということは当然出血もあるし、落ちる場所は清潔なネットの上ではありません。それを犬が口にくわえて回収してきます。食材としてハイリスクなのは当たり前ですよね。
ごく少数のガストロノムだけが顧客なら「食べ物のリスクは自己責任」と言ってもいいと思いますが、「ジビエ」という単語がここまで大衆化するとジビエそのものより”ジビエを食して論評できる自分”が好きなヒトも少なからずいるわけで、そんなヒトがジビエのリスクを理解していると考えるのはそれこそリスクです。「責任」は提供する店側が負わなければならないというのは法の求めるところでもあるのだし。
生レバを提供する飲食店は論外だけれども、これからはジビエを出す店もそれなりの覚悟が必要な時代になっていくでしょうね。やめる決断をした私は腰抜けです、はい。
ジビエの調理について厚労省は中心温度が75度になるまで加熱することと指導しています。
野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)aidorain.pdf
鳥類の場合これを厳密に守っていたらフランス料理としてはとても商品にならないし、守っているレストランがあるとも思えません。
脱法行為と言ったら言い過ぎかもしれないというのは私自身がこの業界にいるからですが、料理専門誌も含めてメディアはリスキーなそれらの料理をもてはやしてきたし、いわゆる「美食家」の皆さんたちが(理解しているかどうかは別として)求めてきたものでもある。リスクを無視して(伝えず)顧客が求めるものを提供する行為は振り返ってみればあのユッケ事件の構図と同じなのではありませんか?
それでも脇坂のジビエ料理が食べたいとおっしゃっていただいた方には宣言後も提供してきました。私の宣言は、それらを食すことにはリスクが伴うことを理解している人にでないと私としては提供できません、というリスクヘッジなのです。ご理解いただけますかね?
そもそもさ、食用に飼育された鳩や雉があるのにあえて野生のそれらを狩って食すことの意味というか意義を、そんな文化を持たない日本人がどれだけ理解しているんだろう?とも思うのですよね(これについては前述のリンク先で言及しておりますが)。ジビエ好きを自認する方のうちの幾許かは「ジビエ」という単語に魅力を感じてるだけなんじゃありませんか?だいたいジビエ ド マリってなんだよ?家禽と野禽はどっちが食ってうまいのかなんてことも一概に言えることではありませんが、もし野生の牛とか豚がいたとして食肉用に育てられたものとどっちが美味しいと思いますか?件の幾許の人々は野生の動物を食すことについての文化的歴史的背景の理解も持ってはいないように感じるのですがどうです?
つい先日札幌の☆付きレストランが食中毒を出して営業停止になりました。報道された事柄がもし事実なら、提供側の食材に対する理解が浅いという部分でジビエが持つ問題と根っこは同じでしょう。どうであれ食中毒という事故が起きれば一番に被害を受けるのはその顧客なのであって、それを予防するためのあらゆる手立てを講じることが店側の最も大事な責務なのだけれど、加えて店も事業の継続は難しくなるでしょうし訴訟に及ぶことだって想定してなきゃおかしい。
それらのリスクを想定してもなお無条件に低温調理のジビエを提供するレストランはよほど顧客に恵まれているか相当肚が据わっているかのどちらかなんでしょうね。
このような意見表明にはアンチが湧くことももちろん想定しておりますけど、ご同意いただける方には正しい”ガストロノミ”の普及のためにも是非シェアしていただきたく思います。
長文お読みいただきありがとうございました。