旧「オヤジのフレンチ」

「グラン・メゾン」についての考察

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グラン・メゾンという言い方があります。

高級レストランという意味で使われることが多い言葉ですが、多少フランス語を齧った方なら決定的な間違いに気づくはずです。そう、「メゾン」は女性名詞ですから、発音は「グランド・メゾン」とすべきなのです。ところが、試しに「グランドメゾン」で検索してみると、ヒットするのはマンションばかり。レストランを指す場合は圧倒的に「グランメゾン」が多いのはなぜか?

Les_grandes_maisons

Grande maison そのまま訳すと「大きな家」ということになりますが、レストランを指す場合規模の大小のことを言うのではありません。英語のGreatと同様に「偉大な」という意味ですから、一軒家でなくてもいいんです。ただし、レストランとしてふさわしい設えを備えている必要はあるので、どんなに料理やサーヴィスが素晴らしくても、あまりに小さい店に対しては使いません。

雑誌等の編集者がGrande maisonのカタカナ表記を「グラン・メゾン」とすることに、何らかの意図があるのか単なる無知のせいなのか私は知りませんが、好意的に判断すれば日本語として「グラン・メゾン」は既に市民権を得ていて無用な混乱を避けるため、ともとれます。であるならこれは和製仏語と言えるかもしれません。

では、ここまで日本で「グラン・メゾン」を浸透させたものは何か?
ここからは、言語学者でもなくフランス語のネイティブでもない一介の料理人のかなり怪しい仮説ですから、それなりのユル~イ気持ちで読んでください。

フランス語の発音をカタカナで表記するのは無理があるのですが、できないと言ってしまうと身も蓋もないのであえて表すなら先に書いたように「グランド・メゾン」です。
ですが、話し言葉では<d>や<t>の音が落ちることはどんな言語でもよくあることで、たとえば「おーまいがっ(Oh my GOD)」とか、「あいどんのー(I don’t know)」とか。若者言葉「マジっすか?」はどうか知らないけど。
これらは発音しないのではなくて(発音しているけど)聞こえない、というのはご理解いただけると思います。特に母国語以外の言葉は聞き取りにくい。

生身の人間が話す言葉ですから、住んでいる地域や話し手のキャラクターによっても違いはあるでしょう。あるいは「グラン・メゾン」としか聞こえない発音をするフランス人もいるかもしれませんが、「発音しない」のではないのです。

私はフランスへ行ったばかりの頃、「Chambre froide シャンブル・フロワド」(ウォークインの冷蔵庫)が「シャンム・フォア」にしか聞こえなくてシェフを困らせたことがあります。けど、耳が慣れてくるとちゃんと「シャンブル・フロワド」に聞こえてくるんですよ。

結論。
日本人の耳に聞こえた音をそのままカタカナにしたことで「グラン・メゾン」が一般化した。

保証はしませんよ。引用はしないように。

Grand(e)の反対語はPetit(e)です。これも外来語の「プチ」あるいは「プティ」として定着してます。商品名やレストランの店名など、フランス語の文節の中で使われるときは性数一致は当然行われますが(それさえできてないのは論外です)、それをカタカナ表記するときには女性形のPetiteであっても「プティ」とすることが多いようです。「プティット」はあまりなじみがないから。


(こんなの誰も知らんだろ)

そもそも商品名や店名などは文法的に間違いであろうと意味不明であろうと命名者の自由です(まあ、間違いはないに越したことはないんですが…)。日本語の(と思われる)名称でも意味不明なものはたくさんありますが、それにいちいち難癖をつける人はいないし、かえってそれによって人々にインパクトのある名前として覚えられやすい場合もある。

有名なブランドですから実名を挙げても許してもらえるでしょうか?
「Comme ça du Mode」 こじつけ気味な解釈をする人もいるようですが、全く意味不明なフランス語ではあります。しかしこちらは「コムサデモード」という一つの語、名称であって、文法的にどうか、なんてことはどうでもいいんです。

そんな固有名詞の場合はともかく、一般語のときはやはり正しい表記をしたいと思うので、私は「グランド・メゾン」と表記してきました。

ついでに言うなら、日本人にとって最も不得手な<r>ですが、数字の3を日本風に「トロワ」と発音すると間違いなくフランス人には通じません。耳に聞こえる音のまま表記するなら「トワ」でしょうか。
けど、それだとフランス語を学習しようとする人に<r>は発音しないという誤った情報を与えることになる。<r>はもちろん発音します。しますけど慣れない日本人には聞こえない。だからカタカナで表記するときは「トロワ」としているのでしょう。

今回はツッコミOKですよ。
フランス語の得意な方、どんどんツッコんでください。

関連記事:
続「グラン・メゾン」についての考察 ※2019/10/30追記あり
店名についての考察

chef

8 Responses to “「グラン・メゾン」についての考察”

  1. un fan de vous 2009年10月11日 at 23:34 # 返信

    ちょっと前の記事で<vacance> と書かれているのは、休暇の意味でしたら複数形で、<vacances>にすべきかなと思います。

  2. オヤジシェフ 2009年10月12日 at 00:13 # 返信

    早速のツッコミありがとうございます。
    なぜか分からないけど、書き込まれたとおりに表示されていなかったので、私のほうで修正しておきました。

    • 関口正敏 2019年10月18日 at 08:50 # 返信

      Grande maisonは「高級な店」だと思います。「大きな家」はune maison grandeです。これは「偉大な男」と「大きな男」の関係と同じです。日仏で習いました。関口

      • chef
        chef 2019年10月25日 at 21:34 # 返信

        おっしゃる通りです

  3. ike kobayashi 2019年10月24日 at 23:14 # 返信

    フランス語で会社や組織の設立年を表すときは.Maison fondee en 1900. (fondeのアクサンテギュを表示できず失礼!)といいますから、偉大な組織(レストラン)と表すときは、Une grande maisonが正解だと思います。グランメゾンのように、本来の発音を無視した表記はその国の言語文化を侮辱する行為ではないかと思いますし、日本人のインチキ外国語の発明を助長することになります。

  4. chef
    chef 2019年10月25日 at 13:41 # 返信

    例のドラマのおかげ(せい)で「グランメゾン」は和製仏語として完全に定着したでしょうね。私は使いませんけど。「侮辱」はちょっと言いすぎかな。。
    それより、「フランスではgrande maisonなんて言い方はしない」と主張される方を見かけると論破してやりたい衝動にかられますw

  5. 民国108年 2019年10月28日 at 17:56 # 返信

    初めまして。グランメゾンのフランス語について検索した時にこちらに辿り着きました^^;)お店の宣伝にはこのネタは有効かもしれないですがw

    さて、私個人の意見ですが、Grande Maisonを「グランメゾン」というカタカナ表記するのは、フランス人が早口で言うと”de(ドゥ)”の音が落ちるという解釈するならありだとは思います。

    ただ、今回フランス語の本当の問題は、”Grand Maison”(ママ)という表記を番宣の画像でもそのまま使ってしまっていることではないかと思うのです。

    ここの部分をちゃんと、”Grande Maison”として、カタカナ表記を敢えてグランメゾンとするなら、色んな意見はあれど、まだ考えているな、というのが解るんですけどもね・・・間違った表記をするとアホ丸出しのように取られてしまうんですが、敢えて視聴者に強く印象づけようとしたのかと勘ぐってしまいます・・・丁度フランスのラグビー雑誌が「行け仏」という見出しつけたみたいにですw

    ところで話変わりますが、”Salle à manger”というのは家のダイニングルームですよね?これをお店の名前に付けられたのは、家庭的な料理を提供されるおつもりでいるのかもしれないので、そこにある種のセンスを感じます。フレンチ=高級という敷居が高いイメージを払拭される意味では。大阪在住ですが東京行った時に寄ってみたくはなりました・・・

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