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ちょっと思うところあってですね・・・

これまでもこのブログでたびたび取り上げてきた食肉製品の発色剤(硝酸塩類と亜硝酸塩)について、あらためてその効能と危険性について詳しく説明させていただこうと思います。長文ですが食にたずさわるかたはぜひお読みいただきたく存じます。

硝酸塩はそれ自体ではさほど危険なものではありませんが、体に取り込まれるとその一部が亜硝酸塩に変換され、ニトロソアミンという病気を引き起こす物質を生成します。一部では発がん性も指摘されているところですが、これについては諸説あり、まだ本当のところは解明されていません。
摂取した硝酸塩の65~70%は尿として排出され、のこりの大部分は唾液中に分泌されて再び取り込まれます。その際に口の中の細菌によって亜硝酸に変換されるほか(食べたときにも同じように変換が起きます)、胃でも変換されることが確認されています。最終的にどれくらいの割合で亜硝酸に変換されるかはさまざまな要因によって変わってくるので正確に算出することは困難ですが、4〜7%という報告があります。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/syosanen/eikyo/001.html
http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/joho/0507/joho01.html

硝酸塩は私たちの身体の中でも作られますし、周りの環境中にも広く存在します。そして植物が生育するのに不可欠な物質でもあります。ですから、大部分の野菜にも含まれており、ヒトが摂取する硝酸塩のほとんどは野菜からのものです。野菜を食べないという選択は現実的にあり得ませんから摂取を回避することは不可能です。これについて厚労省は「食品としての野菜の有用性、これまでの食経験、知識等から考えると、現時点で問題があるとは言えない」としています。
http://www.ffcr.or.jp/zaidan/MHWinfo.nsf/98a5d7b766af9bfb492565a10020c601/ce7101d177b43f05492569df000ba6e6?OpenDocument

特に多いのは葉物野菜、とりわけルコラやほうれん草には多量に含まれていますので、調理の仕方を工夫する必要があります。
コレ、参考にして下さい→http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/syosanen/sessyu/001.html
ポパイみたいにほうれん草ばかり食べるのはよろしくないってことですが、ニトロソアミンの生成を阻害するビタミンCを多く含む野菜もバランスよく摂ることでリスクを減らすことができます。

このように危険性のある亜硝酸が発色剤として食肉製品に使われているのはなぜか。

添加物などなかったころには使われてなかったはずでしょ? という疑問もごもっともです。

現代の日本において、ハム・ベーコン・ソーセージなど食肉加工品は、それがなきゃ死んじゃうってほどのものじゃありません。まぁ、嗜好品みたいなものですが、肉が主要なエネルギー源であった欧州では手に入れた肉をいかにして腐らせず保存するか、というのは生死にかかわるとても大事なことでした。そして塩蔵保存を発明したのです。塩漬けすることによって保存性が高まるのは主に水分活性(微生物が活動するために利用できる水の量)の低下によるものですが、天然の岩塩に含まれる硝酸塩の働きも大きく寄与していることが近代の研究によってわかってきました。さらに硝酸カリウム等と併用することにより作用するタイミングや量をコントロールして安定的に効果を得られるようにしたのが添加物としての発色剤です。

発色剤は製造業者の作業性向上と利益拡大のためにあるときから突然使いはじめられたものではないのです。

目に見える効果が火を通しても肉本来の鮮やかなピンク色を保つことから「発色剤」と呼ばれますが、最も有用な点はボツリヌス菌に対する静菌作用です。もしこの菌に汚染された場合、通常の食肉製品の製造法では菌も菌が作り出す毒素も不活化することはできません。これもよく読んでおいてくださいね→http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/micro/boturinu.html

では、発色剤を用いることの利点についてもご説明します。が、その前に少し用語説明を^_^;
亜硝酸の危険性を受けて近年では発色剤を使わない製法に取り組む製造者も多数おります。発色剤を使わずに塩漬けすることを「無塩せき(むえんせき)」といい、従来通り発色剤を使って塩漬けすることを「塩漬(えんせき)」といいます。ややこしいですね。どちらも塩漬けはするんですが、単に法令上のことですからあんまり気にしないでください。ただ、そういうことになっている、ということです。

  • まず筆頭に挙げられるのが、先ほど述べたボツリヌス耐性です。
    無塩せきではこれが得られないため防腐剤を添加する業者もありますから、パッケージに無添加ではなく「発色剤不使用」と大書している製品は要注意です。ただ発色剤が入ってないってだけで他の添加物はてんこ盛りだったりします。消費者にとってはイミフですが、製造業者側には何かそうする理由があるんでしょう、きっと・・・
    対策としては「菌を付けない」。これしかありません。添加物をまったく使わない「無添加」を実現するためには徹底した細菌管理ができる設備(バイオロジカルクリーンルームといいます)が必要です(日本の法律で定められているという意味ではありませんが、HACCPの要件になっておりアメリカでは義務付けられています。これに準じた策を講じることは製造者の責任といえます)。設備投資にかかった費用は当然商品に反映されますから無添加商品の価格が割高なのはしょうがないことです。
    レストランのシェフが無添加で手作りする場合もよく見かけますが、店舗内で提供するだけなら必要なのは飲食店としての営業許可だけです。それはその場で食べてしまうことが前提だからからです。一方流通に乗せる商品に対してより厳しい衛生基準が求められるのは、売ったあとどんな取り扱いをされるかわからないからです。もしかしたら買った後で映画を観てから帰る、なんてことだって十分あり得ますから。もちろんレストランで提供する場合だって衛生管理が重要であることは同じです。
  • 食味の向上
    従来、肉の臭みを消すマスキング効果と言われてきましたが、良くない影響をもたらす成分の発生を抑制するという研究結果が報告されています。
    http://www.agr.okayama-u.ac.jp/amqs/josiki/10-9403.html
    新鮮な原料ほど不快成分の発生は少ないことから、無塩せきの場合は特に原料の鮮度が重要とされます。
  • テクスチャの向上
    肉の結着力が増すことによって保水性が高まり、結果、柔らかくてジューシー、口当たりが滑らかな製品に仕上がる。無塩せきの場合は温屠体法(屠畜直後のまだ体温が残っている肉)を用いることによってこれを補う製造者もいるが、ごく少数。ただし、温度が高いことは微生物の繁殖を助長する危険もあるのでより厳しい衛生管理が必要であり、「製造に使用する原料食肉は、と殺後24時間以内に4°以下に冷却し、かつ、冷却後4°以下で保存した肉塊でpHが6.0以下でなければならない」と定めた製造基準に合致しているのかは不明。
  • おまけとして、色味の向上
    当然のことながら無塩せきでは製品は普通に火を通した肉の色になります。以前はせっかくの「無添加」も色が悪いためになかなか売れず苦労したという話を聞いておりますが、このところの消費者の安全意識の高まりによって売れ行きは好調のようです。

このように発色剤は食肉加工において非常に有用な効果をもたらしますが、危険性のある物質ですから製品内の残存量は70㎎/㎏以下と定められています。これまでに行われた検査機関のサンプル調査では1件の違反が確認されたものの(90㎎/kgを検出)、40㎎/kgを超えるものはほとんどなく平均値は20㎎/㎏を下回っています。
http://www.famic.go.jp/technical_information/investigation_research_report/pdf/1508.pdf
http://www.city.kyoto.jp/hokenfukushi/eikouken/05ekigakujyoho/03nenpou/No.71/c.pdf

では私たちは何からどれくらいの硝酸塩を摂っているのでしょうか。これについての調査ももちろん行われています。以下引用

摂取量の80%以上は生鮮食品に由来している.今回の調査では,硝酸塩は,各年齢層共に96%以上をVII群(果実・野菜・海草類)より摂取していた.すなわち,硝酸塩については,元々野菜に含まれている天然の硝酸塩に起因するものがほとんどであり,添加物に由来するものはごく僅かであることが本調査においても確認された
http://www.ffcr.or.jp/zaidan/MHWinfo.nsf/98a5d7b766af9bfb492565a10020c601/ce7101d177b43f05492569df000ba6e6?OpenDocument

野菜の硝酸塩含有量を減らす努力は今も続けられていますし、食肉加工にあっても製造業者の努力により無添加でも塩漬製品と遜色ないものが作られるようになってきました。消費者の選択肢としての「無添加」はあってしかるべき、という意見には私も賛成しますが、無添加によって得られるメリットは消費者にとって非常に小さいということは言えます。では、製造業者側のメリットは何か?

「無添加」は商売になります。

それが悪いというつもりはありません。売れるモノを売る、というのは商売として至極当然のことです。けれど、販売戦略のためとはいえ、ことさら発色剤の危険性だけを強調し、あたかも「無添加=安全」であるかのような事実と異なる「イメージ商法」を私は批難するのです。本当に「食の安全」を願うなら、ネガティブキャンペーンなどせず安全対策への取り組みをアピールするのが正しい姿勢ではないでしょうか。

私は食品添加物を擁護することによって何らかの利益をこうむるものではありません。多くの消費者と同じように、使わなくて済むものはできるだけ減らすべきと考えます。実際に添加物の力によって原料より多くのハムやベーコンが得られるという魔法のようなことが行われているのも事実です(ソーセージについては伝統的な製法でも30%程度の水が加えられますが、増量を目的としたものではありません)。工業製品といっても過言でないそんなハムは私も食べたいと思いません。

このエントリの目的は、ただ、ただ、発色剤についての誤解を解きたいの一点なのです。

物事にはなんにでも長所短所があります。それを正しく評価したうえで判断していただきたいと願うのです。

長文お読みいただきありがとうございました。

(専門家のかたへお願いです)
私は修業のため2年間食肉加工を現場で学びましたが、それ以外はもっぱら書物による独学です。このエントリ中に間違いを発見されましたら是非ご指摘いただきたいと存じます。
よろしくお願いいたします。

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