旧「オヤジのフレンチ」

料理人の美徳とは

《Attention!!》
今回のエントリはプロのコックさん向けに書かれております。一般のかたはお読みにならないほうがよろしいかと存じます。もし読まれてしまって、「興ざめ」しても責任は負いかねますので、ご了承ください。

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前回はエスコフィエの Le guide culinaire から、〈バターをソースから回収する〉というお話をご紹介しました。

注目していただきたいのはこの本が書かれたのはおよそ100年前だという点です。
当時からすでに〈économiser 倹約する〉ことは料理人にとって当たり前すぎるくらいに大事なことだったわけですが、現在、それを実践してるレストランはどれほどあるでしょう。

ルーを使うソース自体が今はもう博物館行きではありますが、フォン・ド・ヴォや各種の煮込み料理をやれば必ず素材から出た脂が得られます。その脂は完全に取り除いてしまいますが、他の料理の炒め物のために取っておく、ということをする店はそう多くはないような気がします。(サラマンジェはもちろんやってますよ。ビンボーですから)

このことはあのRépertoireだって〈Graisse de marmite 壺の脂※〉という言葉を説明するための文章の中で言っています。
煮込み料理の鍋をそのまま冷ましたときに表面に浮いて固まった脂のことです。

以前、このブログでクレジットカードの手数料のことについて書いたことがありますが、そんなハナシを持ち出すのは「ケチくさい」と言われたことがありました。
たしかにレストランの利益率がどれくらいか、なんてことは一般のかたにお知らせする必要もございませんのでここには書きませんが、料理人は‘ド’が付くほどのケチじゃないとレストラン経営はままなりません。

とにかく「なにも無駄にしない」という心掛けは、料理人にとって必須の資質です。
そんなことはもう先輩諸氏が口をすっぱくして言ってきたことですから、皆さんアタマでは分かっている。
けどねぇ、これって意識して実践しないと身に付かないことなんですよ。

サラマンジェではラップを切る長さにさえシェフからお小言が入ります。
このブログだけ読んでると「ここのシェフっていいヒトそうだなぁ」なんて思われるかもしれませんが(思ってないか…)、そんなことないんですよ。お気を付けくださいませ。

フランス料理店と言ったってピンからキリまでありますよね。
ディナー3500円、ランチなんか800円でやる店だってある。
800円のランチでも利益が出せなきゃやる意味がありませんでしょ?
くず肉、くず野菜からでもおカネがとれる「料理」を作り出せる知恵が必要ってことです。
それはもう、「乾いたぞうきんを絞る」ようなもんです。

オーナーシェフで、自分が泣けばコトが済む程度ならいいですけど、雇われシェフだったら利益を上げることは至上命題です。
だから、シェフになるにはヒキダシをたくさん持ってることも必要なことです。
流行りの超絶技巧ばかりじゃなく、先輩たちが残してくれたいろんな「知恵」もちゃんと学んでくださいな。

そうやって‘経費削減’をすることによって、浮いた分を食材に回せるんです。というか、使いたい食材を使うためにはいろんな工夫をしなきゃならんのです。
それは即ちお客さんの利益のためであり、自分たちの利益のためであります。
技量を磨くのはのは当然のこととして、こんなご時世ですから、お客さんから「コスパが悪い」と言われちゃったら明日はありませんよ。

そんな裏方の事情も知らずに「ケチくさい」とか、「興ざめ」とか好き勝手なことを言うのがお客さんというものなんです。
なんと言われようが、「ケチ」は料理人の美徳でございますよ。

あぁ、料理人てツラい仕事だわね。

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※ marmiteは「(蓋つきの)鍋」と訳すのが適当でしょうが、Répertoire 邦訳版の表記に従いました。
余談ですが、その語源は「偽善的な、心を偽る」という古フランス語の形容詞〈marmite〉からきています。蓋をすると中身が見えないので。
さらに余談の余談、古フランス語の〈marmite〉の語源は「もごもご言う(marm‐)猫(mite)」だそうであります。餌をねだる時だけ人にすり寄る猫から、「偽善的な人物」を連想したものと言われています。(小学館プログレッシブ仏和辞典より)
ハイ、今日のトリビアでございました。

chef

5 Responses to “料理人の美徳とは”

  1. 凌駕D1 2010年3月12日 at 08:29 # 返信

    大先輩シェフの「ありがたーいお言葉」が,ペーペーの見習い君達の耳に届きます様に・・・・.決してイヤミではございません.
    「ケチ」を追求するの事が大切なのはどの業界でも同じ事・・・それに料理を日常的に行うヒトならすぐ分かる事です.食材を無駄にしなければ「生ゴミ」なんてほとんど出ませんし,不必要な物にまで,なんでもラップをかけるなんてあり得ません.ましてや旨味のつまった脂や出汁を捨てるなんて事はね・・・・.
    美味しいものを作る,あるいは食べたければ「お金」「手間」「食材」のいずれかをかけなければなりません.お金をかけられないならば「手間」をかけて「無駄」を省く事は必須.それを「面倒くさい」なんて言い放つ若造には喝を入れてやって下さい.
    そして・・・興ざめ云々言いたがる,「自称お姫様」達には裏方の苦労を隠して・・・出来るだけ稼いでくださいませ.

  2. societe bonne 2010年3月13日 at 16:21 # 返信

    こんにちは!パリ⇔東京往復書簡ブログをしております、ソシエテ・ボンヌのすみのです。(在仏)
    あいかたの情報で、こちらのブログに遊びにきました。
    そしたら!共感の嵐です!!!「もったいない」の精神をもたぬ料理人って?と、私も疑いを持ちます。私はいち主婦ですが、台所に立つ人間は、かならずこの「もったいない」に気づくはずだと思うのです。(ちがうかな?)
    また、フランス人って、ちゃんと「もったいない」を実践していますよね。その心が、今も受け継がれている。先日、パリで人気の料理研究家の家に行ったら、野菜をいためる鍋が汚れていて「夕べ鴨のコンフィをしたまんま、洗っていないのよ。今日はこの油でブリゼする。」と、普通に言っていました。
    とーってもサラマンジェに行きたいです!(夏の里帰りでトライします)

  3. オヤジシェフ 2010年3月14日 at 09:45 # 返信

    すみのさま
    ご訪問ありがとうございます。
    ブログ読ませていただきました。
    コメントの数がすごいですね。
    けんか腰?雑誌記事に怒っている?そんなつもりはないんですがねぇ…。けど、そう受けとる方もいるんですね…気をつけます。
    そちらに伺ってコメしようかとも思ったんですが、おトモダチをビビらせちゃいけないと思いやめました。
    イラストレーターのかたには、私は怒ってないぞっコラッ!とお伝えください。(真に受けないでくださいね)

  4. ソシエテ・ボンヌ カトウ 2010年3月25日 at 00:32 # 返信

    こんばんは=!
    はじめまして。上のすみのの相方として、
    パリ・東京往復書簡ブログを書いているカトウです。
    まさか、すみのがこちらにこんなコメントを残してるとは知らずに、のんきに読ませていただいてました。
    「ちょっとけんか腰」などと書いているのは、
    私なりの、こちらのブログへの愛情&敬意だったのですが、
    もしお気を悪くなされていたらごめんなさい。
    たぶん、その気持ちもわかって下さったうえで、
    上のように冗談で受けてくださっていると感じていますが。
    また、楽しみに読ませていただきますし、お店もうかがいたいと思っています。 
    いいお話を楽しみにしています! カトウ

  5. オヤジシェフ 2010年3月25日 at 02:17 # 返信

    カトウさま。
    誰にも知られていない事実ですが、
    ワタクシ、心のひろ~いオトコとして業界屈指、と自分で言っておりますから、そのようなことで気分を害したりすることはございませんですよ。
    またお越しくださることをお待ちしております。

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