旧「オヤジのフレンチ」

人生楽ありゃ苦もあるさ

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ある寿司屋さんでのお話。

そのお店は私の家から近いということもありまして行きつけにしております。
そして私が「フランス料理の人」だということも知っております。
そこの私と同い年の大将が先日、「フランス料理なんてのは香りも何もない。ただバター臭いだけ」とのたまわったのでございますよ。いやはや、こうもはっきりと宣戦布告をされることも珍しい。

もちろん反論しましたよ。「良い香りのする料理」はフレンチの料理人にとって「Bien chaud(熱い)」であることと並んで重要視する要素ですから。

だいぶ以前のことですが、タモリさんが「フランス料理は熱くないから嫌いだ」とおっしゃったことがあります。ある意味それは真実です。牛やカモ、仔羊など赤い肉は中まで完全に火を通しませんよね(専門的な言い方をすれば「火は通っている」んですが)。そんな肉が熱いわけがない。けど、焼いて休ませたあとの肉を提供直前に再度オーヴンに入れるなりサラマンドルであぶるなりしてすぐにテーブルに届ければ、お客さんが口に入れたときに「熱い」と感じさせることは可能です。魚のポワレやソテなら、Just cuitでフライパンから直接皿に、そしてすぐテーブルへ、というルールさえ守ればたいがいおいしいはずです。
だからBien chaudについてはわれわれ料理人の技術的な問題です。熱くないという印象をお客さんに抱かせるのは料理人としての技量が足りないといってよいでしょう。ただしそこには「食べ手の問題」も存在しますが。

良い香りのする料理

これはね、一定レヴェルの技術を持った料理人という前提条件を付ければ「素材」に負うしかない。そしてそれは熟成と加熱によってもたらされるものです。鮮度じゃありません。生で食べる刺身であってもそれは変わらない。

かねがね私はその寿司屋に対して「仕込みもの」をやってほしいと言っていたのですが、あるのはどこでもやってる〆サバとコハダ程度。
「そんなことを言うなら寿司屋ももっと仕事をしろ」と言いましたよ。
生の魚ばっかり握ってエラそうなこと言うんじゃねえ、と。

昨今の「鮮度良ければすべて良し」みたいな風潮はマスコミのせいでもあるけれど、江戸前の伝統文化をないがしろにしてきた寿司屋の責任でもある。
やっても分かる客がいない、だから売れない、だからやらない。
それでいいんですか?

単純に儲かりゃいいという人は別として、職人としてそれだけ長くその仕事を続けてきた人には何がしかの心意気というか覚悟みたいなものがあると思うのですよ。商売だから売れなきゃお話になりませんが、利益を度外視してもやり続けなければならない仕事もあるはずだ、と。じゃなきゃますます「分からない客」ばかりになるじゃないですか。鮮度がいいだけの素材偏重を助長したのは当の寿司屋自身に他ならない。

どんな仕事でもサービスなり商品なりを提供する側はその道のプロで、利用するのは素人です。素人は分からなくて当たり前。プロは「客が分からない」ことを言い訳にしてはいかんのです。結局それは職人としての自分の首を絞めることになるから。
特に認知度の低いモノを売ろうと思うなら、その仕事を選んだ以上ときに(死なない程度に)「泣く」ことにも甘んじなきゃならんこともある。そうじゃないですか?

そんなこんなで反撃を喰らった件の寿司屋さん、「やるっ」とおっしゃったので、1週間後に再度伺いましたよ。
ヒラメのコブ〆、煮ハマ、いやぁ、ウマかったねぇ…。職人仕事、堪能させていただきましたよ。ありがとうございました。
やりゃあ出来るウデがあるんだから続けてくださいな、とお願いしてきました。

「きょうは仕事したっ」と胸を張った大将、いい顔してましたよ。
次はぜひ煮イカもやってもらいたいねぇ。

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chef

6 Responses to “人生楽ありゃ苦もあるさ”

  1. Hulotte 2010年2月1日 at 11:40 # 返信

    煮ハマ、いいですね~。
    コハダ、煮ハマ、アナゴ、大好きです。
    ところで、私の数少ない経験では、ヨーロッパのお寿司屋さんにはアナゴは無く、ウナギで代用しているみたいですが、アナゴを食べるのって日本だけなんですか?

  2. Atsuko 2010年2月1日 at 13:40 # 返信

    先週の金曜日、お店におうかがいしましたが、お料理、bien bien chaud!でしたよ。
    前菜、メイン供に熱々ものをオーダーしたのですが、はふはふ言いながら食べなければいけないほど熱々で美味しかったです。
    そして、その舌はパンデピスのアイスで冷やしたのですが・・・帰宅後もずーっと考えていました。パンデピスがどうしてあんなに滑らかなアイスになるのだろうと・・・そこがプロの技なんでしょうが・・・不思議です。
    本当は、Tablier de sapeur(スペルこうでしたっけ?うろ覚えで・・・間違えていたらすみません)が食べたかったのですが、それはまた次回おうかがいした時の楽しみにとっておきます。
    月並みな言葉ですが、本当に美味しかったです。
    こちそうさまでした。

  3. Hirocci 2010年2月1日 at 15:33 # 返信

    いい仕事をした職人さんですから、
    ぜひとも「お寿司やさん」ではなくて
    「お鮨やさん」と書いてあげてください。

  4. 西園寺 2010年2月4日 at 10:25 # 返信

    シェフ、貴方には雪すら熱いっ!正にBien Chaud(言い過ぎでしょうか?)
    僕がこの人プロだなって思った人はこんな人でした。
    まだまだ僕が若くて赤ワインって何が旨いのか?判らなかった頃、其の人は1度に2種類のワインを供してくれました、1本はV.D.P、もう1本はCh.~。
    何故こちらが高価で旨いか?判るね?と。
    非常に納得のいく説明でしたし自分でも考えました。素人に判らせる新しい扉を開けさせる、色々な形が有るかも知れないですが其れもプロの仕事でしょうね。
    ※誤解の無いようにV.D.Pでも旨いのは一杯有ります。

  5. 凌駕D1 2010年2月5日 at 09:07 # 返信

    仰る通りですね・・・おいしい料理は良い香りがするんですよね.そして寿司屋の仕事なり料理における手間って,表に出なくても・・・そしてその「手間」を理解しないお客相手であっても,決して「手抜き」をしてはいけないんですよね.
    その素材の美味しさを十二分に引き出してこそ料理人,その為には素材+αの手間をかける事が料理.そう思っているので・・・良いなんちゃらだから・・・新鮮だから・・・「生で召し上がってください」って言われるとガッカリするんです.
    そして我々食べても「新鮮なもの」を食べている「気分」を味わいたいが為に,その生を有り難がるのは如何な物かと思います.はたしてそれは「生で食べる事が一番美味しいのか?」何かひと手間かける必要は本当に無いのか?おいしい鮨を食べると鮨って料理であって「単なる切り身をのせたもの」では無い事を感じますね.
    ボンビーなのでそんなに高級な店には行けませんが,握り鮨好きです.

  6. オヤジシェフ 2010年2月6日 at 10:21 # 返信

    皆様
    たくさんのご意見、励ましをいただきましてありがとうございます。
    いつまでもBien chaudで生きてゆきたいと願っております。
    Merci!

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